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同期入社の乃里子と薫は、同じ人を好きになった。 エリート社員で将来有望な彼と結婚することになったのは薫。 薫は寿退社して専業主婦の道へ、乃里子はキャリア・ウーマンの道へ進む。 二人の道を分けたのは必然の結果ではなく、ほんのちょっとしたこと。 そんな彼女達の27歳から60歳までの物語。

乃里子がキャリア街道まっしぐらかというとそうではなくて、浮き沈みのある人生を送る。 どちらが正解、ということを決め付けたくないためかと思うが、薫も夫の郁夫の浮気に悩んだり自身が不倫したりでこぼこ街道。 薫の方はともかく、乃里子の浮き沈みにはバブルだったり不況だったりという世の中の状況が大きく影響すると思うのだが、それがまったく考慮されていない。 作者も後書きで白状しているが、時代考証というものがまったくないのだ。 30年以上を描くのにリアリティが感じられない。 それが惜しいと思う。 乃里子が切り開いた道は、運・不運ではなく彼女が努力した結果、ということを言いたいのかもしれない。 努力すれば成功する、だけではなく、努力しても報われないことも描いているのだが、ストーリーの展開に都合のよいようになっているだけだ。 最後は60歳になった二人を描いているのだが、雲をつかむようなフワフワ感は拭えない。 題材的には悪くないのにもったいない。

乃里子は、薫の夫と不倫しちゃうのかなーと思って読んでいたが、そうはならなかった。 そういう展開にすることもできたと思うが、そうなると60歳での結末を並行して描くのが難しくなる。 同じ筆者の「恋人はいつも不在」の主人公奈月の母が、夫をかつての同期入社の女性に取られてしまう設定だった。 同じ筆者の作品をずっと読んでいると、ネタというかアイデアの使いまわしに出会ってしまうのはある程度しょうがないのかもしれない。 この例は、使いまわし、というほど酷似しているわけでも重なっているわけでもないが…。

作者がしっかり描きたいのは乃里子と薫なのだろうが、男性キャラが弱い。 乃里子と薫が水面下で狙っていたときは、郁夫は誠実だけど女心には鈍い感じで恋愛に器用な感じではなかった。 どちらかというとおっとりタイプの印象。 それが、結婚後はちゃっかり不倫なんかしたり、おっとりという雰囲気は全くなくなってしまう。 小説の中の役割としてステレオタイプな夫の役割になってしまい、個性が消えてしまうのだ。 世の中そんなものかもしれないが、そんな風に変貌していく過程も読者が納得いくようにしっかり描いてくれればいいのに、惜しいと思う。

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