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1938年の白黒の英作品。 「風と共に去リぬ」の前年に作られた小品で、ヴィヴィアン・リー、チャールズ・ロートン、レックス・ハリソンが出演しています。 「風と共に去リぬ」は現在公開される大作映画と比べてもヒケをとらない一大絵巻ですが、 この映画は、今だったら、おそらく映画という媒体では作られないであろう小品です。 テレビ時代の前の作品ですからね。 そう思って見ないと、何だこれ、ということになるかもしれません。 日本では劇場公開はされなかったようですが、テレビで放映されることがあります。 舞台はロンドン。 38才のチャールズ(チャールズ・ロートン)は大道芸で生計をたてている。 大道芸人の活躍の場は「外の世界」。 一方「内の世界」では、花形スターがショーを繰り広げている。 そんな「内の世界」に憧れる小娘リビー(ヴィヴィアン・リー)が、ある時、チャールズが稼いだ小銭を盗る。 身寄りのないリビーには、皿洗いくらいしか仕事がないのだが、手が荒れるのを嫌い、 そんなことで日銭を稼いでいたのだ。 『皿洗いはしたくない』『しょうがないから盗む』とリビーは自分を正当化するという凄い倫理観です。 少なくとも現代の常識的な物差では通用しません。…が、時は第二次大戦前。 ロンドンの階級社会は冷たく厳しいものだったと想像できます。 自動車が増えるにつれ、大道芸や道ばたの花売りは、稼ぎの場が失われつつあった時代…。 ちょっとはリビーに同情してもいいような気もします…。 でも、とんだアバズレです。 チャールズは怒ってリビーを追い詰めるのだが、リビーの才能に惚れ込み、 結局、彼女を含めた大道芸仲間と一座を組み、新しいスタイルの出し物を始める。 リビーのトンデモな倫理観に比べ、チャールズはとても常識的。 …そして、大道芸にプライドを持っています。 大道芸の仲間達はお互い譲り合って芸を披露していて、違う芸を披露していても仲間意識には厚いようです。 チャールズは最初はリビーに対してカンカンに怒っていたのですが、まず彼女の才能に惚れ込んでしまい、 結局彼女の庇護者となります。 自分の部屋に連れていって一夜の宿を提供する、というのはチャールズの人の良さを表していますが、 ついて行くリビーには迷いとか抵抗はなかったのでしょうか。 とんだアバズレに見えたリビーにも、気立ての良い面があります。 チャールズの誕生日に密かにケーキを用意する場面など、ホッとします。 ひょんなことから、彼等と出会った音楽家のプレンティス(レックス・ハリソン)も、リビーの才能に惚れ込む。 プレンティスの口利きで、リビーは「内の世界」へ踏み込んでいくきっかけをつかむ。 もちろんチャールズは反対だ。 リビーに『結婚してくれ』とまで言うが、彼女は去って行く。 チャールズは大道芸にプライドをもち、それで一生やっていこうと思っていますが、 リビーは常にステップアップのチャンスを狙っています。 チャンスがあればリビーが去って行くのは当たり前。 きっぱりと去っていたリビーを誉めてあげたいですね。 一方のチャールズは可哀想な気もしますけれど、惚れ込んだのはリビーの才能だけではなく、 リビー自身にも惚れてしまったというちょっとした下心ありの為せるワザ。 飼い犬に手を噛まれたという思いもあるでしょうが、チャンスさえあればリビーはステップアップの ために去って行くというのに気付かない、認めない、というのは40近い男としてちょっと情けない…。 リビーは成功の階段を昇り、主演の座をつかむ。 プレンティスとは良い感じだが、彼は『チャールズの二の舞いにはなりたくない』とリビーに言う。 チャールズのことを思い出したリビーは彼を訪ねるが、彼はいない。 リビーに去られたチャールズは意気消沈し、その挙げ句、いざこざを起こし、ムショ暮らしをしていたのだ。 リビーの才能に惚れ込んでいるのか、リビーに惚れ込んでいるのかはよくわかりませんが、 感情におぼれないプレンティスはクールです。 さて、 成功の階段をほぼ昇りつめたリビーが、突然、チャールズを訪ねるという心境はやや不可思議です。 でも、ここでリビーとチャールズが再会しなければ話は完結しないので、お話として必要なプロセス。 リビーはチャールズを成功への踏み台にしたつもりはなかったのでしょうが、 結果的にそうなってしまったことをここで初めて知るわけです。 リビーをただのアバズレには描きたく無かったということなのでしょうね。 4ヵ月の刑期を終え出所したチャールズはすっかり落ちぶれ、盲人のふりをして小銭を恵んでもらっていた。 リビーはそんな彼に遭遇し、びっくりする。 リビーの薦めにより劇団の端役をもらうため、チャールズはオーディションを受ける。 ところが、そのオーディションを受けている最中にチャールズは気付く。 自分の生きる道は大道芸だと…。 そして彼は再び大道芸に戻って行く。 最後は、プライドまで失って落ちぶれたチャールズが立ち直って再び活力を見い出すまでで、 結局、リビーは「内の世界」、チャールズは「外の世界」と住みわける結果になります。 お互い、納得のうえそれぞれの世界に戻っていき、一応 Happy End みたいになっていますが、 現実問題として、チャールズの戻る世界の未来は明るくはないのです。 映画の途中でも語られていますが、自動車が道を走るようになったために、 道ばたの花売りは商売が成り立たなくなります。 警察の取り締まりも厳しくなってきて、道路を不当に占拠してしまう大道芸は大っぴらにはできなくなっていきます。 そんな世界に敢えて戻って行くチャールズ…。 救いは、彼が再び自分の信念とプライドを取り戻したということでしょうか。 PR |
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