今月のMovie Plusの目玉プログラム。
ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』をモチーフに、異なる時代の3人の女性たちを描く作品。
映画としては、3人の女性を演じている3人の女優の共演が見所。
とはいっても、異なる時代であるわけだから、共演という言葉は適切でないかもしれない。
メリル・ストリープが演じるクラリッサと、ジュリアン・ムーアが演じるローラ・ブラウンの二人はかろうじて最後にシンクロするのだが、ニコール・キッドマン演じるヴァージニアは『ダロウェイ夫人』の著者としてのみ。
全員がなんらかの形でシンクロするような形だったらもっと面白かったのだが。
面白くするのがこの作品の目的ではないだろう。
ヴァージニアの周囲の人間は、ヴァージニアの態度に振り回される。
我侭な態度を取るのは、鬱病という病気故のことだ。
しかし、映画全体の三分の一しかヴァージニアを描くのには費やされていない。
それでは共感なり同情を感じるまでには至らない(少なくとも私は)。
彼女が著書『ダロウェイ夫人』の中で、生を際立たせるために死を描く、というようなことを言っていたのは印象的だったが…。
ローラ・ブラウンの子供がリアリティがないのも気になった。
ローラの投影でしかない。
その子供の成長した姿がクラリッサの元恋人リチャード(エド・ハリス)だ。
ここに飛躍がある。
ダロウェイ夫人を投影した女性をフォーカスしたばっかりに、周囲の人間が今ひとつのような気がしてならない。
何もこんなまだるっこしい方法をとらなくても素直に『ダロウェイ夫人』をそのまま映画化した方がいいのではないかと思った。
ちなみに『ダロウェイ夫人』の映画化は既にあるようだ。
この「The Hours」にしても映画のために作られたストーリーではなく、マイケル カニンガムの著作に基づくもののようだ。
その著作を読むなり、『ダロウェイ夫人』の映画なり原作なりを読むなりすれば、この映画を観る上での予備知識になるのかもしれない。
しかし予備知識がないとわからない、というのは単作品としてははてさて…。
映画ならではの、役者の演技や映像美は充分に楽しむことができるが。
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